「声をもう少し高くしたい」——そんなご希望に応えられる手術が存在することをご存じでしょうか。当院で実施している喉頭形成術(甲状軟骨形成術Ⅳ型)は、声帯そのものには一切触れずに声を高くできる術式です。この記事では、なぜこの手術で声が高くなるのか、その仕組みをわかりやすく解説します。
声の高さを決めているのは「声帯の張力」
声は、喉の奥にある声帯が振動することで生まれます。ギターの弦と同じで、声帯がピンと張っていれば高い音、ゆるんでいれば低い音が出ます。つまり「声の高さ」を決めているのは、声帯にかかる張力なのです。
声帯を支えているのは、のど仏として触れる甲状軟骨と、そのすぐ下にある輪状軟骨という2つの軟骨です。この2つの軟骨の位置関係を変えれば、声帯の張力を外側からコントロールできる——これが喉頭形成術の基本的な考え方です。
一色信彦先生が体系化した「喉頭形成術」
喉頭形成術は、日本の喉頭外科の先駆者である一色信彦先生によって1970年代に体系化されました。目的に応じて以下の4種類に分類されています。
- Ⅰ型:声帯を内側に寄せる(声がれの治療)
- Ⅱ型:声帯を外側に広げる(痙攣性発声障害など)
- Ⅲ型:声帯を短くする(声を低くする)
- Ⅳ型:声帯を伸ばす(声を高くする)
今日では世界中で行われている術式の基礎を作ったのが、日本人医師であることは特筆すべき点です。
甲状軟骨形成術Ⅳ型の仕組み
声を高くするⅣ型手術は、正式には「輪状甲状縫合術(Cricothyroid Approximation)」とも呼ばれます。具体的には以下のステップで行われます。
- のど仏の下、局所麻酔で皮膚を小さく切開
- 甲状軟骨と輪状軟骨を糸で縫合し、2つの軟骨を引き寄せる
- 2つの軟骨が近づくことで、声帯が前方下方向に引き伸ばされる
- 声帯に張力がかかり、声が高くなる
他の術式との違い — 「声帯を傷つけない」ことの意味
声を高くする方法には他にもアプローチがあります。たとえば声帯の一部を切除して短くする方法(VSP法など)もあります。しかしこれらは声帯そのものに手を加えるため、万が一の調整不良時に声が悪化するリスクがゼロではありません。
一方、Ⅳ型は軟骨の位置関係を変えるだけで、声帯そのものには一切触れません。そのため、もし術後の声が希望と異なった場合でも、糸を外せば元の状態に戻せます。この「可逆性」こそがⅣ型最大の特徴です。
局所麻酔で声を聞きながら調整できる
Ⅳ型は局所麻酔で行えるため、患者さんが意識のある状態で手術を進められます。実際に声を出していただきながら縫合の強さを微調整できるため、「思っていたより高すぎる/低すぎる」というミスマッチを防げます。
まとめ
甲状軟骨形成術Ⅳ型は、声帯を傷つけずに声を高くできる、理にかなった術式です。加齢・ホルモン変化・性別違和など、声の高さでお悩みの方にとって、有力な選択肢となります。
「自分の場合は適応になるのか」「どれくらい高くなるのか」といった具体的なご質問は、ぜひ音声外来の初診でお気軽にご相談ください。